やせていることが礼賛され、太っているのは悪いこと、が広がっているこの日本の社会で、「普通の食事」とは一体どんなものなのでしょうか?
この記事では、「普通の食事」とは何かを考えながら、それを“正常”または“異常”と決めるつけることによって起きている問題について考えていきます。
私は、病院管理栄養士として、多くの方からこんな質問を受けます。
- 「クッキーは普通1日何枚食べたらいいのですか?」
- 「毎日甘いものを食べてもいいんでしょうか?」
- 「“普通の人”なら、何分かけて食事を食べますか?」
- 「満腹になるのって、いやじゃないですか?」
- 「食事と食事の間に、おやつを何回も食べる人っていますか?」
こうした質問は「普通」へのこだわりからくるものですし、とても理解できます。
食べることに意識をしている方は、「空腹だから食べる」という感覚とのつながりを断ち切ってしまいますし、他人と自分を比較することに過敏になる傾向もあります。
「私の食べ方は変なのかもしれない」という不安があると、「普通の食べ方」や「普通の量」を知って安心したくなるのは自然なことです。
「普通の食事」ってどういうもの?
「普通の食事とは、お腹がすいたときに食べ、満足するまで食べること。
本当に欲しいものを選び、食べたほうがいいからではなく、食べたいから食べる。
栄養バランスを考えながらも、楽しみのための食べ物も大切にする。
そして、嬉しい日も悲しい日も、ただ気分がいいからという理由でも、ときには食べてOKだと自分に許可できる食べ方。
一日に3回食べることが多いけれど、むしゃむしゃ食べるときもある。
明日もまた食べられるとわかっているからこそ、クッキーを残す日もあれば、今この瞬間が大事だからもっと食べる日もある。
ときには食べすぎてお腹が苦しくなることもあるし、もっと食べたかったと感じることもある。
そうした経験を通して、自分の体がバランスを取ってくれることを信じる食べ方。
食事は人生の一部であり、すべてではない。」
以前にこの文章を読んだとき、私はとてもすてきだと思い、雷に打たれたようになりました。
こんな考えは今までは私にはなかった、と。
柔軟で、持続可能で、身体的にも精神的にも自分を大切にできる食べ方だ、そして多くの方もまた、この言葉で安心し自分の目指す方向を見つけられると。
でも、最近、私は「普通の食事」という言葉そのものに、少し違和感を覚えるようになりました。
クライアントの方々が「普通って何?」と問いかけ続ける中で、「普通」という言葉がむしろ回復を妨げることもあると感じるようになったのです。
「普通の食事」という考え方の落とし穴
■ 「普通=一般的」なだけで、健康とは限らない
私たちが暮らすこの社会では、食事に関する痩せている方がいい、や“健康”信仰が根強くあります。
そのため、「普通」とされる食習慣自体が、実は不健全で制限的であることも多いのです。
たとえば、あなたの身の回りにも「昨日たくさん食べたから今日は抜こう」と言ったり、
「体重を管理するために○○ダイエットをしてる」と話す人がいませんか?
カロリーをアプリで記録したり、罪悪感から食事を抜いたり。
これらは“普通”に見えるかもしれませんが、決して健康的な食習慣ではありません。
■ 「普通」があるなら、「異常」も生まれる
「これが普通の食事です」と定義することで、それ以外の食べ方が「おかしい」「異常」とされてしまいます。
でも実際には、食べ方は人それぞれでよく、背景や環境、目的も多様なはずです。
たとえば、同じ昼食を毎日食べる人がいたとします。
それが摂食障害のサインであることもありますが、ただ単にその人の好みやライフスタイルの一部かもしれません。
祖父が毎日同じサンドイッチを楽しんでいても、それは単に“好きなものを食べていた”だけなのです。
誰かが制限的な食事をしているとしても、それを「異常」と切り捨てることは避けたい。むしろ、それは“混乱した世界のなかで、自分なりに安心を求める努力”なのかもしれません。
■ 「普通」を目指すあまり、自分に合う食事を見失う
食事を「普通」に戻すことを目標にしてしまうと、本当に大切なこと――「今の自分にとって、心地よく、安全で、満足できる食べ方は何か?」という視点を見失ってしまうことがあります。
ある方は、毎日お菓子類を昼食にとっていました。お饅頭やマドレーヌ、蒸しパンやチョコレートバーなど。一見「変わった食事」かもしれませんが、彼女にとっては、カロリーの把握がしやすく、心の負担も少ない大切な食事スタイルでした。
でもある日、同僚の他愛もない会話で、「普通のランチ」と比べて自分の食べ方に自信を失いそうになったのです。
それは彼女が「普通」を追い求めないといけないと思ってしまったから。
でも、そのとき彼女が選んでいたお菓子の組み合わせは、彼女の中で“最善の選択”だったのです。
「普通の食事」ではなく、「あなたに合った食事」を
理想的に見える食事スタイルも、すべての人にとってできるとは限りません。
- ADHDの人は、規則的な食事スケジュールを強く意識する必要があるかもしれません。
- 拒食症が長引いている人にとっては、カロリーを数えることが安定を保つために必要なことかもしれません。
- 特定の病気によって、食事に多くの注意とエネルギーを使うことが求められる場合もあります。
こうした食べ方を「異常」と片づけるのではなく、それぞれの人にとっての「最善」として尊重するべきだと私は考えています。
あなたはどんな「食べる人」になりたいですか?
一番大切なのは、「どんな食べ方が、今のあなたにとって心地よいか?」ということです。
他人の基準や、社会が押しつける“普通”に左右されるのではなく、自分自身の身体と心に耳を傾けてみましょう。
アオキコブログでは、あなたが“自分にとって心地よい食べ方”を見つけられるようサポートしています。私たちは、決まった型にはめることなく、あなたのペースとニーズに寄り添う個別のサポートを大切にしています。
最後に
今この瞬間のあなたにとって、少しでも優しく寄り添える内容になっていれば嬉しいです。
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