「病院の管理栄養士って、どんな仕事をしているの?」
この問いを投げかけると、多くの方が「給食を作る人」と答えます。
たしかに、給食管理は大きな仕事のひとつです。
ですが、病院の管理栄養士の業務はそれだけではありません。
この記事では、病院で働く管理栄養士の仕事の全体像を紹介し、
その中でも「給食管理」に焦点を当てて解説します。
病院の管理栄養士の仕事
病院の管理栄養士の仕事には大きく分けると以下の業務があります。
- 給食管理
- 栄養指導
- 栄養管理
- その他(衛生管理・委員会活動など)
この記事では、給食管理について詳しく見ていきます。
給食管理
給食管理とは、入院患者さんに安全で美味しい食事を提供するための一連の業務です。
病院によって細かな内容は異なりますが、一般的には以下の工程で成り立っています。
- 献立作成
- 見積もり作成
- 発注
- 検収
- 棚出し
- 食数管理(食数把握)
- 調理
- 配膳前チェック
- 給食提供
献立作成
病院の献立は多くの場合、サイクル献立が採用されています。新しく病院ができるなどではない限り、献立を一からすべて作ることはほぼありません。
サイクル献立とは、あらかじめ一定期間(例:14日、28日)分の基本献立を作成し、
それを繰り返し使用する方法です。
たとえば28日サイクルの場合、
No.1〜No.28までの献立を、1か月間の日付にコピーして使用します。
次の月は再びNo.1からスタートします。
季節によって「夏献立」「冬献立」を用意する施設も多く、
旬の食材を使ったり、めんや汁物や果物を季節に合わせて変更したりします。また、行事食など特別な献立の場合は、別途行事食献立のサイクルが組んであればコピーするか、新たに献立を作成します。
平均在院日数や病棟の特徴によってサイクルの長さは異なります。
例えば、平均在院日数が7日前後の場合、14日サイクルでも同じ献立が出る前に退院されますが、平均在院日数が30日だと、何度か同じ献立になってしまいますよね。そのため、サイクルを長くします(35日サイクル(5週間)など)。
また、消化器内科や、外科などの手術をする方が多い場合は、提供できる食品自体が少なく、バリエーションが持てないのと、短期間で一般食に変更されるため、1、3日など短いサイクルで回す献立もあります。
精神科、重症心身障害児者など生活の場として入院されている方が多い施設では、もっと長いサイクルを組んでいる施設もあります。
特に決まりはなく、病院の傾向によって変えるとよいです。
見積もり作成
献立が決まったら、使用する食材の見積もりを取ります。
病院ではスーパーで購入するのではなく、
複数の食材卸業者に見積書を依頼し、価格や納品条件を比較します。
献立データから使用予定量を算出し、業者に見積依頼を送付。
各社の見積書が揃ったら、最も条件の良い業者に発注します。
手順としては、献立のコピー→実施献立日の予定の食数を入力→使用材料予定数を計算→予定数で見積もり提出を各社に依頼という流れになります。
納品業者からすると、いくつ買ってくれるかわからないと仕入れ値も決められません。
ジャガイモ1kgが100円だとします。1㎏だと納品価格は100円だけれど、100㎏ならたくさん買ってくれるので値引きして10000円のところ、9500円で仕入れますよ、といった感じの値引きが入ることがあります。普段取り扱っていない取り寄せ商品の場合、在庫が残ってしまうとその会社の損になるので、予定数量があるなら、損にならない数を買えばよいので、取り寄せ商品を扱いますよ、という場合もあります。
このとき、食材単価を把握することが非常に重要です。
限られた予算の中で、旬の食材への置き換えやメーカー変更など、
コストを調整しながら献立を作成します。
発注
発注は、見積もり確定後に行います。
発注書は給食システムから出力することが多いですが、
実際の患者数に応じて数量を修正する必要があります。
たとえば冷凍食品が10個入りで、患者数が102名の場合、
端数が出るため110個(11袋)で発注します。
修正時は修正ペンを使わず、二重線と訂正印で修正するのがルールです。
生鮮食品などは10日前後で発注することが多いです。
その後、生鮮食品など、余ったら保存がきかないものは納品業者の発注数量の変更ぎりぎりに、発注変更をし、予定数量をなるべく実施数量に近く設定して無駄がないようにします。
検収
発注が終われば納品です。納品時には検収(検品)が必須です。
生鮮食品の場合、野菜が腐っていないか、使用に耐えられるものであるか、肉や魚の規格があっているか、などを確認します。
その場で包丁で野菜を切って中を見たり、魚や肉など1切れの発注の重量よりも明らかに大きいor小さいがあれば、その場で秤で量りましょう。
不良品があった場合は、業者に現品を見せて交換を依頼します。
誤って廃棄してしまうと証拠が残らないため、
業者の指示を受けてから廃棄するようにします。
納品の際、発注した数量があっているか、納品書に記載されている数量と納品された数があっているか、見積書の価格と納品書の価格があっているか、を確認します。
棚出し
納品されたものをそのまますべて使える訳ではありません。
納品された食材を、使用日・使用回(朝・昼・夕)ごとに仕分けする作業を棚出しと言います。
誤使用を防ぐため、張り紙や棚の段を分けて管理します。
調理現場は時間に追われるため、棚出しの工夫がミス防止につながります。
棚出しは、乾物と冷凍、冷蔵に分けて行います。
その際に、使用材料一覧表を使用し、使用予定数量を出しておきます。
食数管理(食数把握)
調理をする際、何を何人分作るかがわからないと皿の準備などができません。そのため、調理指示表等で、実際の人数を調理師に示す必要があります。
また、患者給食を提供する際に、食札という、どの患者の食事かがわかる札を食事と一緒に配膳するものも必要です。
炊飯量一覧がある施設もあります。これは米をどれくらい炊けばよいか分かる表です。
食数管理には、食事変更も含まれます。
当日、食札や調理指示表などの帳票類を調理場に渡してから後の、食事の準備中、準備が終わってから入院、退院、外出、外泊、食事変更、食止などを決まった時間に変更する必要があります。
調理
調理は、調理師や調理員が行いますが、管理栄養士が調理を行っている施設もあります。
病院の給食の調理には、調理師の免許は必要ありませんが人材不足が課題となっています。
配膳前チェック
食事を配膳する前に、トレイ(お盆)に正しく料理が乗っているかをすべて確認します。チェックのポイントは、
アレルギーがある患者にアレルギー該当食品が間違って乗っていないか
形態調整食(嚥下・刻み)が正しいものが乗っているか
米飯量や、粥が間違っていないか
ふりかけやパック醤油などの抜けがないか、つかない人に乗っていないか
皿が割れていないか
皿に汚れがないか
盛り付けが美しくなされているか
間違いがあればすぐに修正し、調理工程に問題があれば調理者へフィードバックします。
給食提供
食事は配膳車に乗って運ばれて行き、病棟で配られます。配るのは看護師・看護助手が多いですが、中には調理員が配膳している施設もあります。
食事の様子を見に行くのも管理栄養士の重要な業務です。
残飯の確認も重要。食べ残しが多い不人気のメニューや、人気のメニューなどが確認できます。
配膳車は栄養まで戻ってきて、次亜塩素酸やアルコールで消毒し、次の配膳を待ちます。
食事の下膳は、下膳用カートを使っているところが多いです。患者自身で、もしくは看護師が下膳カートにそのまま食べ終わった食事をのせて、食器洗浄員が、食器洗浄室に運搬し、残飯を処理し食器を洗浄、乾燥滅菌、次の提供に備えます。
まとめ
給食提供には多くの工程と人の手が関わっています。
入院患者さんの中には「食事だけが楽しみ」という方も多く、
管理栄養士の仕事は単なる“食事提供”にとどまりません。
「食べることを通して、心と体の支えになる」
それが、病院で働く管理栄養士の使命です。
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