摂食障害(過食性障害)過食性障害とは
過食性障害(Binge Eating Disorder: BED)は、自分ではコントロールできない過食(binge eating:むちゃ食い)を繰り返すことが特徴です。
過食によって体重が増加するのを防ぐための過度な運動や、嘔吐、下剤使用、絶食などの、食べたことをなかったことにしたくてする行動を伴わない点で神経性過食症とは区別されます。
ここでいう過食とは短時間に大量の食べ物を食べることを言い、ただの食べ過ぎは一線を画します。
また、食べずにはいられない、食を自分でコントロールできないという感覚を伴います。
過食性障害では、代償行動を行わないため、体重が増える傾向にあり肥満が多くみられます。
過食性障害の疫学と発症傾向
過食性障害に生涯のうちにかかる割合は、約2.0%と言われています(世界保健機構より)。
男性1.4-2.0%、女性2.6-3.5%と女性に多い傾向がみられますが、神経性やせ症や神経性過食症と比べると、性差が少ないのが特徴です。
過食性障害の平均発症年齢は24歳前後で、思春期にもみられます。
過食性障害では体格指数(BMI)が高い傾向があり、WHO世界メンタルヘルス調査によると、過食性障害患者の30.7%が過体重(BMI≥25kg/m2)で、36.2%が肥満(BMI≥30kg/m2)と報告されています。
日本でも、肥満手術が保険適用となり、病院で受けられるようになりました。
WHOでは、肥満外来で手術を希望する患者でBMI 35kg/m2以上の高度肥満が主体である肥満外科希望者の過食性障害併存率は17%だったといわれています。
摂食障害(過食性障害)の主な症状と診断基準(DSM-5)
むちゃ食いかどうかを判断する基準は、ある時間内に大量の食べ物を食べること、コントロールできない感覚(コントロール喪失感:loss of control: LOC)を伴うことです。
過食性障害の診断基準(DSM-5)
- A反復する過食のエピソード、過食のエピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
- 1)他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
- 2)そのエピソードの間は、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)。
- B過食のエピソードは、以下のうち3つ(またはそれ以上)当てはまる
- 1)普通よりもずっと速く食べる。
- 2)苦しいくらい満腹になるまで食べる。
- 3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
- 4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる。
- 5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分的、または強い罪悪感を感じる。
- C過食に関して明らかな苦痛が存在する(苦痛の内容については明確ではありませんが、Bの4)5)を含むものと考えられます)。
- Dその過食は、平均して3カ月間に週1回以上は生じている。
- Eその過食は、神経性過食症の場合のように反復する不適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるのではない。
摂食障害の面接評価法であるEating Disorder Examination(EDE)では“客観的な”むちゃ食いと、“主観的な”むちゃ食いを区別しています。違いは以下の通りです。
- コントロール感の喪失を伴った、他者から見ても明らかな大量の食物摂取
- コントロール感の喪失を伴った他者からみて大量ではないが、自分では大量と思う食物摂取
神経性過食症のむちゃ食いのあとには嘔吐のような代償行動が続きますが、過食性障害では嘔吐を伴わないため、むちゃ食いの始まりと終わりがはっきりわかれてないことがあります。
短時間に大量の食べ物を摂取することと、その最中に「自分では止められない」という感覚(コントロール喪失感)を経験することの両方が、過食の診断には必要とされています。
しかし最近では、「コントロール喪失感」こそがこの病気の本質である、という考え方が注目されています。
現在、この「コントロール喪失感を伴う摂食」については、肥満外科手術を受けた患者を対象に広く研究されています。
スリーブ状胃切除術やバイパス手術といった肥満手術の後は、胃が小さくなり、身体構造や生理的な機能が大きく変化します。
術後の初期段階では、物理的に一度に大量の食事を摂ることが難しくなります。
それにもかかわらず、多くの患者が「コントロール喪失感」を引き続き経験していることが分かっています。
このような感覚は、減量の効果を低下させたり、心理的な苦痛を大きくしたりする要因となります。
実際、術後に「食のコントロール喪失感」が強いほど、体重減少がうまくいかない傾向があることが報告されています。
また、こうした感覚を頻繁に感じる患者ほど、精神的な問題(精神病理性)も深刻になりやすいといわれています。
そのため、「コントロール喪失感」という現象をより深く理解することが、術後の経過悪化との関連を明らかにし、問題のある食行動を早期に発見して体重のリバウンドを防ぐ上で非常に重要だと考えられます。
摂食障害(過食性障害)の心理的な特徴(心のサイン)
過食性障害患者は、神経性過食症患者に比べて、全般に食事や体重についての不安やとらわれは少ない人が多く、食事抑制の程度は低いと言われます。
しかし、むちゃ食いのない肥満患者との比較では、過食をコントロールできず、食事や体重にとらわれが強く、身体への不満足感も大きいといわれています。
摂食障害(過食性障害)過食性障害と併存しやすい精神疾患
過食性障害患者が、他の精神疾患にもかかっていることは少なくありません。
一生涯のうち、過食性障害患者67%は少なくとも1つの他の精神障害を経験し、そのうち、47%が気分障害と41%が不安障害という報告があります。
また。過食性障害患者の37%が現在、少なくとも1つの他の精神障害をもち、そのうち不安障害や気分障害が多いといわれています。
薬物使用/乱用(22%)、ギャンブル依存(5.7-18.7%)のほか、買い物依存(7.4-18.5%)などをもっている場合があります。
摂食障害(過食性障害)過食性障害の治療と支援
心理療法
認知行動療法、対人心理療法、弁証法的行動療法などが有効とされています。
英国国立医療技術評価機構(NICE)の診療ガイドラインによると過食性障害の治療はガイド付き自助(セルフヘルプ)プログラムが第1選択、集団認知行動療法が第2選択、個人認知行動療法が第3選択となっています。
認知行動療法
直接的に、食事のパターンを正常化することを目的としており、患者がストレスに対処できるように行動や認知を修正し、むちゃ食いの頻度を減らします。
その効果は長期間続き、精神病理も改善されます。
対人関係の困難に焦点を当てた対人関係療法も同様に長期的な効果が示されています。
さらに感情の調節、苦痛への耐性、対人効果に焦点を当てた弁証法的行動療法も、過食性障害や関連した精神病理を減らすのに有望とされています。
最近ではむちゃ食い症状に対するセルフヘルプ形式の治療の有効性が示され注目されています。
過食性障害に対するセルフヘルプの治療の多くは、認知行動療法に基づいたものです
薬物療法
薬物療法は過食性障害の主要な治療法ではありせんが、主に抑うつ症状と体重管理に対処するために、補助的に用いられることがあります。
抗うつ薬であるセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、過食症の頻度を減らすのに効果的であることが示されていますが、減量に対して望ましい効果は認められていません。
肥満手術
過食性障害の併存は、術後の減量効果の妨げになる可能性
術後にも「コントロール喪失感」が残る例が多く、心理的ケアが必須
摂食障害(過食性障害)過食性障害の経過と予後
過食性障害の経過に関するエビデンスは未だはっきりしていませんが、概ね過食性障害の長期転帰は、他の摂食障害よりも良好であることが示されています。
過食性障害が他の摂食障害に移行する傾向は小さく、神経性過食症への移行が増加したとする報告はごくわずかです。
また、過食性障害患者の治療予後は、他の摂食障害よりも良好とされます。
治療を受けた患者の50~80%が寛解に達しています。
心理療法または心理療法と薬物療法の併用は、薬物治療のみの場合と比較して、より優れた治療効果をもたらしています。
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