摂食障害とは?種類と特徴
摂食障害とは、食事に関する深刻な問題が続き、体や心に大きな影響を及ぼす病気の総称です。代表的なものは 神経性やせ症(拒食症) と 神経性過食症(過食症) で、さらに 過食性障害 や 回避・制限性食物摂取症 も含まれます。
これらは、アメリカ精神医学会が作成した診断基準「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」に基づいて分類されています。
この記事では、摂食障害の中でも特に患者数が多い 神経性やせ症(拒食症) について、症状・原因・治療法を実際に治療に携わった管理栄養士がわかりやすく解説します。
摂食障害(神経性やせ症)とは?症状・原因・治療法を管理栄養士が解説
摂食障害(神経性やせ症)(anorexia nervosa)とは
神経性やせ症では、体型や体重のボディイメージのゆがみがみられます。明らかにやせていたり栄養状態が悪くても、それがおかしいと思えません。
患者さん自身の自己評価は、体型・体重に大きく左右されます。体重が増えることを極端に恐れたり、さらに減量しようとしたりしてしまいます。
食事の量を制限しますが、それだけでなく、反動で過食する人もいます。その場合は体重が増えないように嘔吐や、下剤を使って体重増加を防ごうとする代償行為が出現します。
以前は、拒食症、神経性無食欲症、神経性食思不振症などと呼ばれてきました。
しかし、必ずしも食欲が低下しているわけではなく、太ることへの恐怖のために食事が食べられないのです。
そのため、これまでの神経性無食欲症や神米国精神医学会の診断基準であるDSM-5日本語版では神経性やせ症という新しい病名がつけられました。
低栄養がすすむほど治療が難しくなるため、できる限り早く対応が必要です。
摂食障害(神経性やせ症)の主な症状
摂食障害(神経性やせ症)の身体的な症状
- 低体重 BMI(Body Mass Index) = 体重(kg) / (身長(m))2 18.5未満
- 疲れやすい
- 筋力が低下
- 低血圧
- 心拍数低下
- 心電図の異常(QT延長やT波異常)
- 甲状腺機能の低下
- 低体温
- 無月経
- 便秘
- 足のむくみ
- ムダ毛が濃くなる
- 皮膚が乾燥する
- 手のひらや足の裏が黄色くなる
- 過食嘔吐がある場合は、唾液腺が腫れる、手に吐きだこが出現。
- 脱水、貧血、白血球減少、肝機能異常、低たんぱく症、脂質異常
- 嘔吐や下剤の影響で、電解質の異常(カリウム低下、極端な塩分制限や多飲による低ナトリウム血症)
- 骨粗鬆症
- 腎機能障害
- 低体重が長期間にわたると、脳の萎縮もみられるようになります。
やせているのに活発に活動することが多くみられます。
脱水により一見データが正常に見えることもあるので、要注意です。
摂食障害(神経性やせ症)の心理的な特徴(心のサイン)
- うつ症状(飢餓の影響)
- 不安
- こだわりが強くなる
- イライラする
- 集中力の低下
- 人との交流を避ける
- 性的興味がなくなる
やせていることによって、今の自分への満足感は得られます。しかし、その根底には自尊心の低下が隠れています。
本人は、自分が病気であるとは思っていないことから、親との関係が悪化することがあります。
摂食障害(神経性やせ症)と併存しやすい精神疾患
神経性やせ症は様々な精神疾患をもっていることがあります。
抑うつ障害、双極性障害、社交不安症、パニック症、強迫症、パーソナリティ障害、神経発達障害、アルコールその他の薬物の物質使用障害(乱用・依存)などがあります。
これらを併存することで、摂食障害の治療がより複雑になります。その場合、それぞれの病態に応じた治療や工夫をする必要があります。
摂食障害(神経性やせ症)の経過と予後
やせていることによって、今の自分への満足感は得られるために、自分が病気であるという認識がなく、受診が遅れがちになります。
極端な体重低下のみならず、全身倦怠感、無月経、便秘などで、産婦人科や内科など精神科以外の病院を受診して発覚することもあります。
経過は複雑で、食事制限をしている場合はしばしば過食排出型や神経性過食症に移っていくこともあります。
体重や月経、さらに、認知面も含めた完全回復には年単位の時間がかかることも。
死亡率は6~20%で、他の精神疾患より高くなっています。
極度の低栄養に起因する衰弱死、不整脈、感染症、自殺などが主な要因となっています。
ダイエットがきっかけで発症することが多いです。体重をうまく減らせると、一時的に達成感や充実感が得られ、さらに拒食と過食の繰り返しで病気が長期化する方も少なくありません。悪循環に陥ってしまうと治療が長期化するため、早急に治療をすることが望まれます。
摂食障害(神経性やせ症)の治療法と支援
治療の目標
治療は、食行動の改善、身体面の改善(体重増加・月経回復)、心理面の改善、学校や職場での適応、社会生活の復帰などを目標とします。
治療内容
- 心理療法:認知行動療法(CBT)、家族療法 (有用と言われている)
- 薬物療法:オランザピン等(併存疾患に応じて使用)
※薬物療法は、強迫性神経症などのオランザピン(向精神薬)が出すことができる病気を併存している方の場合、強迫性の低減、体重増加の助けになる可能性がありますが。薬物療法だけでは問題は解決しないことがほとんどです。
栄養サポートと食事の進め方
- 食事は、三食規則正しく食べることを目標として、少量より始めて、少しずつ増量していきます。
- 食事を増やすことで、患者さんは「食べるのが怖い」「体重を増やさないとはわかっているけれど、増やすのが怖い」など様々な葛藤や抵抗が生じるため、支持的なケアも必要
- 食べていない時期が長かった場合、急に栄養を体の中に入れると、低リン血症などといった、リフィーディング症候群のリスクが高くなります。そのため、段階的に食事は増量していきます
- 栄養療法により飢餓症候群が改善されると、認知面の改善がしばしば見られるため、その点も伝える
もちろん、家庭や学校の協力も不可欠となります。
食事を摂取しても急激に体重が増加しないことを一緒に確認し繰り返し実感してもらうことも、認知の修正には大切となってきます。
治療の場について(外来と入院)
受診をしたくないという方も多く、家族に連れられて受診することが多いです。
低栄養による身体・心理面への悪影響を正しく知ることが治療の足掛かりとして重要となっています。
家庭・学校・職場での人との関わりが病気と大きく関わっていることも少なくありません。ご家族と共に受診されることをお勧めいたします。
始めは外来治療で治療を行いますが、低体重が著しい場合や、階段を登れなかったりといった体が極端に弱っている場合、体の異常・精神症状が強い場合などに、入院が必要になることがあります。
また、外来治療で改善が見られない場合は、ご本人・ご家族と相談の上、入院治療が行われます。低体重が著しくなくても、入院治療の効果が期待され、すすめられる場合もありますので、主治医とよく相談しましょう。
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