ごはんを出しても、「食べない」と言われてしまうあなたへ
「ごはんできたよ」と声をかけても返ってくるのは「いらない」の一言。
一生懸命作った食事に手をつけてもらえず、悲しさや怒り、無力感でいっぱいになる。
そんなご家族の声を、私は日々、現場で受け取っています。
私は精神科や心療内科で、摂食障害のある方の食事と栄養をサポートしている管理栄養士です。
サポートしているのは患者さんだけではありません。
「家でどう接すればいいか分からない」「傷つけたくないのに、どうしても責める言い方になってしまう」
――そんなご家族の悩みや葛藤にも、日々向き合っています。
この記事では、ご家族ができること・やらなくていいことを、できるだけ具体的に、やさしい言葉でお伝えします。
食卓は「治す場所」ではなく「安心を感じる場所」
摂食障害を抱える子どもにとって、食事は本来「安心できる時間」であるはずです。
でも、気づかないうちに、**「食べさせるための場」「治すための戦場」**になってはいませんか?
私は、訪問時に食事の場に同席するとき、患者さんの許可があるときだけにしています。
「今日はやめてほしい」と言われたら帰ります。
「いてもいい」と言われたら、1時間でもそばにいます。
その時間に特別なことはしません。
しゃべったり、黙ったり、ただ一緒に過ごすだけ。
何かをすることより、「そばにいること」こそが支援だと、私は思っています。
ご家族として「何とかしなくちゃ」と思うのは当然のこと。
でも、がんばりすぎなくて大丈夫です。
まずは、家族が安心して過ごすことが、本人にとっても安心につながります。
「支える家族」に伝えたい7つのヒント
ここからは、私がご家族によくお伝えしている食事の場での接し方や声かけのヒントを7つご紹介します。
✅1. 焦らなくて大丈夫。見守る姿勢がいちばんの支援
摂食障害は、焦ってもすぐには変わりません。
「早く元に戻ってほしい」という気持ちが、かえって本人にとってプレッシャーになることもあります。
食べることを急がせるより、「一緒にいる」「雰囲気を穏やかに保つ」ことを意識してみてください。
✅2. 「どれだけ食べたか」で判断しない
完食できた日だけを「いい日」としてしまうと、本人は常に評価されているように感じます。
「今日も食卓に座ってくれた」
「少し話せた」
そんな食べる以外の変化に目を向けることが、回復への大きな支えになります。
✅3. 「なんで食べないの?」はNG
本人自身も、なぜ食べられないのか言葉にできないことがほとんどです。
「今日はしんどかった?」
「無理しなくていいけど、話したくなったら聞かせてね」
気持ちに寄り添う声かけが、心の距離を縮めてくれます。
✅4. 命令ではなく、提案してみる
「全部食べなさい」よりも、
「スープだけでもどうかな?」
「食べられなかったら、温め直せるから大丈夫」
そんな選択肢を渡す提案型の声かけは、子どもが自分で決められる感覚を取り戻すきっかけになります。
✅5. 食べやすさの工夫を取り入れる
- 少量ずつ盛り付ける(完食へのプレッシャーを減らす)
- 小皿に分ける(見た目の負担を軽くする)
- 温かくてやわらかい料理から始める(スープ、おかゆなど)
- 食事中はラジオをつける、話題を食事から離す(緊張を和らげる)
本人が安心できる食卓の雰囲気づくりを意識してみましょう。
✅6. 家族も「助けを求めていい」
支える側も疲れます。つらくなることも当然です。
- 家族会や支援団体につながる
- 気持ちを話せる相手をつくる
- 自分のためのリラックスタイムをつくる
**「家族も支えられていい」**という視点を、どうか忘れないでください。
✅7. 治そうとしなくていい。「一緒にいる」だけでいい
摂食障害の回復には時間がかかります。
すべてを完璧にこなす必要はありません。
あなたがそばにいてくれること、見守ってくれることが、本人にとって何よりの支えになります。
🌸おわりに|あなたの存在が、回復の一歩
食事を通して「助けたい」「元気になってほしい」と願う気持ち。
その優しさが、逆にプレッシャーになってしまうこともある――それが摂食障害のむずかしさです。
でも、あなたはすでにたくさんがんばっています。
焦らなくて大丈夫。できるところから、一歩ずつでいいのです。
「あなたがそばにいること」それ自体が、子どもの回復を支えているのです。
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